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3/30 メッセージにお返事しました!
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  2. sotto voce

sotto voce

「ゔぉ……」
冷めた夜の空気の中、月明かりが差し込んで青い廊下を歩く白銀の影が、1つ。
「(んだぁ、この音……真夜中だぜぇ)」
音楽室と呼べるほどのものではないがボンゴレが闇と誇るヴァリアー本部である、足りない物などほとんど無いばかりか、ピアノやヴァイオリンといった嗜み程度のものまで優雅に備えられている。確か3階の奥の小さな一室に、年季の入ったピアノが1台だけぽつんと置かれていたはず。弾く人もいない上に幼い頃から剣だけを握ってきた彼には、小さな音楽室などとはもはや全くと言っていいほど関わりがない。
だからそんな部屋があるなんてことも忘れていたのだが。
黒い革手袋を髪の中に差し入れさっと梳く。パタタタ、と細かい血の雫が床に散らばるのを見もせず、スクアーロはそのままぼんやりとした頭で音に聴きいった。
(……すげえな)
流れるように耳をくすぐるのは、この上なく高速で優雅な旋律────いわゆる幻想即興曲というのだが───この一途な剣士が知るはずもなく、ただ聴き惚れさせるに留めた。一オクターブを流れるように行き来し、力を抜きつこめつつ、鮮やかに鍵盤を打つ演奏者の姿が浮かぶ。先程まであぁ、そう言えばそんな部屋があったななどと緩く考えながら、半ば記憶を辿る形で自室へと向かっていたスクアーロがふと足を止める。白銀の美しい長髪がさらりと揺れた。
(オレらの中にピアノなんか弾けるヤツいたかぁ?)
変人奇人の多いヴァリアー隊員の中でも、音楽や芸術に長けたものは少ない。なんとなく嫌な予感がし、隊長としての責任感に圧され、音の方へと足を向けた。大きな黒いブーツが1音、床と触れ合ってカツンと音を奏でて、そしてまた止まる。
曲調が変わったのである。
小さいといっても防音対策は万全であるのだが、仕事柄耳が良いのは仕方の無いことである。鍛えぬかれた聴覚は重い防音扉を通り越して、鼓膜に甘い旋律を叩き込む。今度は彼でさえ知っている、子守唄のような緩やかな旋律を。
「(……あ)」
「(きらきら星)」
・
・
・
古びた城の3階の奥。重厚な黒扉を開けると、ガラス張りの大きな窓が壁の1面を占め、月の光をしなやかに屈折させている。鮮やかな濃紺の空と、ピアノの前に座る演奏者の髪の、薄い金のコントラストが美しい。
「…………てめえかぁ、ベル」
髪の一筋も乱さず鍵盤の黒と白を弾いていた指が止まる。それと共に、アレンジが多分に加えられたきらきら星も。くるりと振り返る顔に、少し驚きの色が混じっていることにスクアーロは驚く。
「…誰か向かってくんなーと思ってたら何だ、カスザメじゃん」
「お前ピアノなんて弾けたのかぁ゙」
「だってオレ王子だし。つーか何、こんなとこまで来て。俺の音色に聴き入っちゃった?」
揶揄い混じりににやりともにこりとも言えるように笑う後輩のこの表情は部下に言わせてみれば『悪魔の微笑み』だが、スクアーロは鼻で流す。こんな風に軽口を叩けるのも、彼が8年来の付き合いだからだ。彼――切り裂き王子と恐れられる殺し屋ベルフェゴールは、その名の通り王家の血を引いている(らしい)。そのためか知らないが、軽侮するような口調の中にもどこか高貴なものを漂わせているところがある。それが底意地の悪い言動と相まって、何とも言えない魅力
に───なっているとは思いたくないが───とにかく懐に入るのが上手い奴なのだ。そんなことを思考の隅によけ「俺等にゃうるせえ音だっつーことくれぇ分かんだろ」とスクアーロは吐き捨てる。
「寝てる奴もいんだぞぉ。生きて任務から帰ってきた奴くらい安らかに寝かせてやれ」
「うわー。それお前の願望?芸術を騒音に感じるのなんかお前くらいだし」
「ウチの隊員なら聴きたくなくても聴こえて当然だクソペーペー王子が!第一てめー、ボスさんは知ってんのかぁ?」
「うん」
「なんて言ってた」
「“好きなだけ弾け”って。」
(何でベルと芸術には妙に甘ぇんだアイツは……!!)
スクアーロは頭を抱える。ボスを盾にしようと試みたのに逆に相手に力を与えてしまった。対する王子はあっけらかんと首をすくめる。
そう言えば、この部屋に入ってきたときから感じていた。天井に施された中世を彷彿とさせる幾何学模様のような絵に、壁一面を占める窓を彩る濃赤のカーテン。柔らかな短い毛で暖色に纏められた分厚い絨毯。記憶を掘り返してみてもこんな装飾は以前来た時には無かった。…となればこれも、こいつかあのボスが用意させたに違いない。
「結構、使ってんのか?」
「んー。任務の前とか、指の体操程度に」
そう言ってベルは両手を顔の横で広げて見せる。幼い頃からあまり光を好まなかったのであろう白く細い指は、いま月光に照らされいっそう白く見える。
(……まあ、別に止めさせる必要もねえか)
すらりと伸びた細い指に、女性より一回り大きな掌。そこから続く骨ばった細い手首までを見据え、スクアーロはふと思う。
(んな細せー手で人が死ぬとは、誰も思わねえだろうな)
「ちょっと、お前さっきから何なの?疲れてんの?空気悪くて弾きづれーんだけど」
壁にもたれて居直ってしまったスクアーロに向かって、怪訝な顔をする若きピアニスト。
ピアノを閉じ、白金の髪を揺らし近づいてくるその姿から殺気は感じられず、かつて己の信じるボスから紹介されたあの日のように幼く、懐かしく、そして愛しいただの少年のように思えた。

彼が凄腕の暗殺者に戻るまで、あと少しなのだろう。

「疲れてはねえ…ベル」
「あん?」
自分の顔を覗き込む後輩に、目を閉じて言う。
「お前なんでヴァリアー入ったんだぁ?」
「何でって、殺しが楽しいからに決まってんじゃん」
「そうかぁ」
「気色わりー………!?」
ぐいっと急に引き寄せられ、驚きの声なき声が上がる。しかし柔らかい髪をくしゃりと抱くように後頭部を持てば、意外と抵抗はなく。
しなやかで細くて、やはりすっぽりと腕に収まってしまうほどに華奢な体。その温かさ、脆さを肌で感じつつ、スクアーロは腕に力を込めた。
守ってやりたいなんて思ったことはない。幼いからと言って、人を遊び感覚で殺しまくる彼を罰の因果から庇おうと思ったこともない。だが、ごくごくまれに、少しだけ、無性に庇護欲を掻き立てられる時があるのだ。
それは主無き時、いつか戻ってくると信じて疑わなかった彼のために、まだ幼かった同僚を死なせまいと誓った記憶があるからか、それともまた別の違う感情からなのか、それはスクアーロ自身にも分からない。
ただ細い綺麗な手を見て、まだ自分より幼い顔を見て、華奢な肩を見て、あるのは深い哀れみと愛しさ。殺しをする時にはどんな相手にも感じることのない“可哀想“という感情。幼くして血に酔いながら戦い続ける後輩に対して、感じずにはいられない同情。それも残酷なほど他人事な。
だが結局、それも殺し屋の業であり運命なのだろう。

ふいに胸を押される感覚がしたかと思えば、腕の中に抵抗が起きる。先程まで身動き一つしなかったベルがくぐもった声で、「いつまでやってんの…」とつぶやいた。あ、やべぇ。体格差に任せてかなり強引に引き寄せちまったが、いー気持ちでピアノ弾いてた王子様にとっては迷惑もいいところか。
悪ィ、と言って手を離すと今度こそ飛んでくると予想していた自慢の飛び道具も振りかざされることは無く。
「やっぱ疲れてんじゃん。なあ」
言われて初めて、服のシワをぽんぽんと直すベルを見つめる己の脳がやけにぼんやりとしていることに気づく。そう言えば遠出の任務が続き、ここ1週間ほど寝ていない。しかしだからと言って酒に酔った時のように衝動的に抱きしめた訳でもない。
それを伝えようか伝えまいか悩んでいると、グランドピアノの黒いふたに手を掛けたベルがふいに口を開く。
「何がいい?」
何が、とは。
脈絡がない。突拍子もない。眉だけをピクリと動かして訝しげな顔をするスクアーロに、ベルが仏頂面でもう1度尋ねる。
「曲。何がいーの」
「あ?」
文字通り目が丸くなった。いや目を丸くした、か。いやそんなことはどうでもいい。
「弾いてくれんのかあ?」
「だーかーらそー言ってんじゃん社畜鮫。どうせまたボロ雑巾みたいにこき使われて寝てねーんだろ」
「!だからって寝れなくてここに来たわけじゃねーぞぉ!」
「はいはい。で、何がいーの」
ベルが、あの我が儘極まりないクソガキ王子様が、俺のために何か弾く?
言い方は癪だが珍しいこともあるものだ。少しだけ重い瞼をそれでも開いて、考える。つったってなぁ、知ってる曲なんか殆どねぇぞ…。
しばしの沈黙のあと、目を逸らしながらスクアーロはぼそりと呟いた。
「さっきの、きらきら星」
「ん。変奏曲な」
「うるさくねぇのがいい」
「お前オレを誰だと思ってんの?子守歌くらい余裕」
「お子様に言われてもなあ」
ムカツク、と一言呟いて不貞腐れる王子様。それでも弾いてくれるらしく、形の良い手のひらが指先だけを立てるようにして白鍵と黒鍵に添えられる。
ピアノに適した手だった。
きっとボンゴレの嵐の守護者などが見たら息を呑むであろうほどに。
その細く長い指先が鍵盤をなぞり、何とも言えず甘く美しい音色が流れ出す。ぼんやりと揺れる金髪を眺めていると、段々と瞼が下がってきた。そこまで来て漸く、スクアーロは自分の体が限界に近いことを知る。遠のいていく意識の中で、よく聞こえる優秀な耳に届く安らかな旋律に身を委ね、無意識のうちに彼は意識を手放した。
アレンジが多分に加えられたきらきら星。
不思議と、うるさいとは感じなかった。

——-END——-

ソットヴォーチェ…ひそめた声で
ピアノの補助的な強弱記号。

2018年執筆

© 2023 Lullaby.