(…こりゃマズい奴に出会っちまったな)
たった今鼻から吐き出された煙の1枚向こう側、現れた気配の異様さにシャマルは驚く。目立たないようにしてはいるが、明らかに一般人とは違う気配。
足取りは軽い。
しかし音がない。
仕事終わりに公園の喫煙スペースで一服…と思っていた身として若干惜しい気もしながら、まだ半分ほど残っているタバコを灰皿に押し付ける。
太陽が完全に西に沈み、あたりが薄暗くなる。
「爆弾少年のかてきょーしたらしいね」
冷えた聞き覚えのある声。
平静を装いシャマルは答える。
「ま、ナイフと爆弾の戦いでああも抑え込まれるってのはあいつにはいい刺激だったんじゃねえか?」
「まーた」
影は笑う。
「気が気じゃなかったんじゃないの?ほんとは。ボスはさぁ、10代目になれなかったのがやっぱ重かったみてえだけど俺はあんましそうは思わないぜ。あんときゃ沢田綱吉に全部持ってかれたって感じで俺らも所在なかったけどさ。だって考えてみ、勝ったことでこれから沢田が日向の道を歩めるのかどうか」
ザアアアア──
木々がざわめき、影がゆっくりと輪郭をあらわす。
出てきたのは赤い髪の女子中学生だった。
「お前んとこの少年も同じ」
「同じ穴の貉ってな」
目を細める針山姫子。
「これからが楽しみ」
「まとわりつくよ。影としてな」
シャマルは苦い顔をする。そして姫子のふとももに目をやって言った。
「…無理があるんじゃねえかあ?」
「そお?フツーの女子中学生の丈らしいぜ」
あっけらかんと首をすくめる姫子。その姿が霧に包まれたようにぼやけていく。
「じゃあなドクター」
だんだんと剥がれていく幻覚。最後に見たのは喪服と、頭に輝くティアラのきらめき。
(どうにも、)
(魔法がかってやがる)
夕暮れの空が血のように赤い。血色の光を受けた影は赤黒く、重たく伸びてひそやかだ。