仕事から帰ってきたら届いてました・・・!!!ヤッホウィ!!!
前回河童を読んだときもお話ししたんですが、本来なら鬼→河童→天狗の順番なところを逆から読み進めてってまして今回ようやく最初の話を読めるというわけです。疲れた時に読書に浸れるってすごい贅沢な時間の過ごし方だなあ。
姿勢も良く毅然としているから、訴えかけると云うよりも抗議するという体なのだけれど、少女は興奮している訳でもなく、また決して怒っている訳でもなかった。兎に角この娘は生真面目なのだ。
今昔百鬼拾遺「鬼」 p5
会ってから一度も目を逸らさない。
気恥ずかしくなってこちらが視軸を外してしまう程である。
まだ十四だと云う。
毎回思うけど地の文で語られる客観的な人となりの説明が、そのキャラ自身の思う自分自身のイメージと違うことがあって興奮する。あとスピンオフじゃないところでは客観的にしか書かれてなかったキャラが、語り手になった途端に意思を持って、嫉妬とか劣等感を心にぼんやり感じてたりするのにもめっちゃ興奮する。
「────こんな下手な犯人に斬られるのは厭だ、って。痛いだけで死なないなんて最低だと思う、とも云ってました。自分はいつか誰かに斬り殺される運命なんだから、せめて上手な人に斬って欲しいと」
今昔百鬼拾遺「鬼」 p35 呉美由紀
これは美由紀の友達(今回の事件で殺された)が言ってたせりふ。すごく京極作品らしいキャラクターだなーと思った。
そうですよねと元気に云って、美由紀は目を見開いた。
今昔百鬼拾遺「鬼」 p38
かわいい。愛おしい。
敦子にとって凌雲閣は、前時代と近代の狭間に突っ立っている。旧い時代から新しい時代へと突き伸びた異形の塔は、新しい時代から眺めるならば中空から出でて地面へと突き刺さった旧い時代の楔に過ぎないだろう。記録の中に残るそれは、敦子にとっては決して愉しそうな場所ではない。それは最初から廃墟だ。印象としては中世の羅城門か、城主がいない廃城か、そうしたものである。当然最上階に巣くっているのは、人ではない。
今昔百鬼拾遺「鬼」 p91
それは下界を見下ろしている。否、煉瓦に穿たれた小窓から、展望室の望遠鏡から、覗いているのだ。まるで覗きからくりを観るかのように。
その、虚ろな塔の主は虚無である。
新旧どちらの時代からも爪弾きにされた浅草十二階には、虚無が満ちている。
言葉の力だけで物の見方を180度変えてくるから京極は言葉の魔術師だと思う。この凌雲閣だって愉しそうなイメージだったのにもう怖い。文章の端々にキーワードを仕込んでおいて、サブリミナル効果でじわじわテーマを意識させてくやり方。知らず知らず何もかもが鬼に結びついていく。テーマが日常の中にも、建物や人との関係性の中にも当たり前のように潜んでいるんだよって訴えかけてくるから心細くなる。
何を信じようが信じまいが、人の想いとは無関係に起きることは起きる。それは、時に用意された構図に当て嵌まってしまうことがある。その時に人は、信じないようにしていた超自然的で神秘的なものを、信じざるを得なくなる。
今昔百鬼拾遺「鬼」 p109
だから恐くなる。
も~その通りだよ。だから京極はゾッとさせるのが上手いんだな。
最近思うのだが、敦子は明治大正あたりの時代が────苦手なのだ。
今昔百鬼拾遺「鬼」 p122
夜が明けているのに暝い朝のような、夜明け前なのに薄明るい白夜のような、そんな不安を覚えるのだ。そういう時代には敦子の立ち処はない気がする。
なんて表現が上手いんだ~。私もおんなじ気持ちです。文明開化してる影で底知れない闇を抱えている印象で不安になる。現代に生きていて良かった。
「道がどうの、精神がどうのと剣術使いは云うがな。それとこれとは別だ。道だの精神だの云うのだってな、それは、殺せる道具を持ってるのに殺さねえと云う、そう云う強い心がねえと殺しちまうからあるんだろ。だから道も出来たんだろうよ。でもな、どんな崇高な心ォ備えてたって、どんなに立派なお方が持ってたって、だ。この刀は、刀自体は、人殺しの道具なんだ。人殺すために作り出されて、人殺すために使われる、刀ってのは人殺しの道具なんだよ」
今昔百鬼拾遺「鬼」 p147 大垣喜一郎
強い心という言葉にしょぼんとなった。自分で自分をコントロールできないかもしれない状況下に立たされたら、自分なんかは簡単に道を捨ててしまうかもしれないと思った。そんな自分は弱い、と感じた。
「私、人殺しには馴れてるんですッ」
今昔百鬼拾遺「鬼」 p249 呉美由紀
美由紀は榎木津だなあ。誰も彼もが正しいことを言ってるようで間違っているとき、雰囲気が暗くなって答えなんかないように思われて心細くなるけど、そんな時美由紀が心を初心に帰してくれる。間違っていることはやっぱり間違っているんだと目が覚める思いがして、心に光が戻ってくる。
「馴れてますって。別に平気ですよ。私が悪いことした訳ではないですから。と、云うか、美由紀さん殺されなくって良かったわねぇとか同情されましたから。そうですわって、話合わせました」
今昔百鬼拾遺「鬼」 p257 呉美由紀
事件が解決して後日談の美由紀。そうですわがかわいくて。強くなったな。たくさん友達が殺されてきたのに。涙でそう。
百鬼夜行シリーズは語り手によって全然雰囲気が変わるのが面白いし、京極堂や榎木津がいなくても敦ちゃんや美由紀がその代わりをできるんだというのが新たな発見でした。そして関口君が見る世界観がいかに独特かが分かる。榎木津や美由紀が主役だと読後感めちゃいい。仕事終わりに音楽流しながらぺたぺた気に入った箇所に付箋を貼っていくのが楽しかった!